王ジャパン、野球世界一への道

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わたしがこの本を読んでいると83歳になる母親が読み終わったら貸して欲しいと言うので驚いた。野球に興味のある人ではない。わたしの影響でサッカーには多少の知識はあるものの、実際にテレビでゲームを見るのはワールドカップくらい。その母が実はWBCを見ていたと知った。
「イチローさんは偉い」
そうかイチローか。この本の中にもイチローがいかに爺殺しであるかのエピソードがあるが、婆殺しでもあったのだ。
日本対韓国の準決勝の視聴率は瞬間で50%を超えた。その中にはほとんど野球を見たことのない母のような人たちが多くいたに違いない。国と国との戦いにはそのひとつのスポーツの枠を超えて人を惹きつけるものがある。やっぱりやってみて良かったじゃないか。



石川保昌さん(とらさん)の「王ジャパン、野球世界一への道」はMLBのセリグコミッショナーが、自分の任期中に野球のワールドカップを実現したいと発言した2003年の夏から、開催が決定するまでどんなことがあったか、そして開催してからの各国選手の姿、特に日本がいかに戦ったかを記録している。会期中とらさんは新聞・雑誌・ネットメディアに原稿を送り、なおかつご自身のブログに速報をアップする。わたしはそのTRA’s Sports Newsの速報を楽しみに覗いてははらはらしていた。

野球のワールドカップが開催されるらしい。そのニュースは日本では随分懐疑的に取り上げられた。“MLBのビジネスにどうして付き合わないといけないのだ。こっちにはこっちの興行がある。”というような反応だ。日本の球界がひとつになってワールドカップを目指しますという空気ではなかった。 その間の日本の球界、マスコミの動きの核心にも触れている。今となっては驚くべきことに2005年7月、日本プロ野球選手会はWBCの開催時期がシーズン入り直前であること、MLBが一方的に企画したことなどを理由に、参加を見合わせる総会決定を発表した。
しかしサッカーに比べれば一部の国とはいえ野球の世界の中では十分に「世界的」な気運が盛り上がる中で、いつまでも日本だけが足を引っ張ることは出来るはずもなかった。
「なにをするにも自分たちの利益枠(=既得権)が守られるかどうかが判断基準となる、日本的ビジネス・モデルの典型」である日本の野球界とその野球界で飯を喰っているマスコミの度量の小ささ。批判の中にはためにする批判だけでなく正当なものもあった。であれば、次に向けて将来のためにするべきことがあったはず。
とらさんは共同記者会見の度にレギュレーションの問題、日程の問題などについて質問をする。質問をして答えが返ってくれば、それがアメリカでもドミニカでも韓国でも報道される可能性があるからだ。次のために、もっと大会が良くなるために。
とらさんは韓国ファンからイチローに浴びせられた激しいブーイングについても会見の場で質問している。
“野球の話は野球の話にしておきませんか、サッカーとは違う日韓間の新しいスポーツの楽しみ方があるはずではないか”というとらさんの提案が韓国の人たちへも届いていることを願う。
しかるに日本の通信・新聞の記者はなぜ黙っているのか。共同会見では特ダネが取れないからというのでは、創造的な仕事はできない。そこにいられるというのはある意味特権だ。記事を読む人、野球ファンの人、新聞を買う人の顔をいつも思い浮かべてもらいたい。スポーツの場合取材するときにはその対象に対する愛がなければ。最低限、そのスポーツを愛する人に対する想像力がなければ。

ドーピングチェックの問題、キューバの参加の問題、紆余曲折を経て大会開催が決定される。組み合わせが発表され、一次ラウンドが始まる。
わたしたちが期待するイチローだけでなく、A・ロッド、バリー・ボンズ、そしてとらさんが敬愛するドミニカの選手たちの発言が多く取り上げられ、彼らの野球に対する愛情とファンに対する責任感を知ることができる。

「アメリカで5年が過ぎ、この2シーズンはチームとしてプレーオフにもからむことができない。緊張感がない野球をすることが多かったので、ジャパンのユニフォームを着て、興奮して野球をしています。」チームメートから新鮮な刺激をもらっていると言うイチロー。
クールな人だと思っていたイチローの思いがけない熱さに、引き込まれていった人が多かった。
とらさんから見たイチロー、とらさんが言葉を交わした松坂、とらさんが接した王監督。
結局はとらさんの立ち位置が正しいというか絶妙なために、彼らの姿もまたあるべきポジションに写る。ここというポジション、そして大きすぎず、小さすぎることもなく、体温も感じられる。
ここは見逃さないでというエピソードはたくさんあるのだが、その中でひとつ。
とらさんがバックネット裏でひとりバッティング練習を見ていると、王さんが声をかけてくれた。二人だけで話す滅多にないチャンスを得たのだ。疑惑の判定で勝てる試合を落としてしまったアメリカ戦のあとのことだから、眠れないほどの悔しい思いをお互いの中に見る。とらさんにとってWBCの取材をすることよりも王ジャパンの勝利を願う気持の方が大きくなったのはこの日からだった。

「2次リーグ」のプール1の戦績を見ると1位韓国が3勝。日本、アメリカ、メキシコが1勝2敗で並んだため、失点率で順位を決定した。失点率は試合数ではなく総守備回数で割る。日本はアメリカよりも3分の2回多く守っているので失点率で上回ることができた。
「最後まで諦めずに全力で戦わないといけない」わたしたちはよくこういうことを言う。寧ろそれを信じたがっていると言ったほうがいいだろう。そうすれば道が開けるのだと。WBCでの日本の戦いはそれを本当に見せてくれたから、多くの人の感動を呼ぶことができたのだろう。
3月20日、ペトコ・パーク。日本は10本の安打で10得点をあげ、11安打で6得点のキューバを力で制して世界一の座に着いた。

WBC後、王監督は体調不良で入院、手術をされ、今はチームに復帰している。
とらさんも激務がたたり、くも膜下出血で緊急入院。手術を経て現在リハビリは順調に進んでいる。
とらさん、症状を自覚しながら仕事の整理をしてから入院したことを知って、母が言っていました。「無理しちゃ、いけませんね。命は大切にしないと。」
それに対してわたしは、「とらさんは命はとっても大切にする人だけど、体には無理させないとならない仕事だからねー。」と答えました。
自分の先が短いことを自覚している母の言葉は「命あっての物種」
とらさん、伝言受け取ってください。
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by inadafctokyo | 2007-06-02 11:01 |


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