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ちょっと残念なオーシャンズ

府中TOHOシネマズに「オーシャンズ」を見に行ってきました。

構想10年、撮影期間4年、撮影場所は世界各地50箇所に及んだという「海」を描いたドキュメンタリー映画です。

最初と最後にウミイグアナが登場します。その姿はわたしたちが知るイグアナそのものですが、海の中にいるというのが不思議な感覚です。
怪異な容貌のコブダイ、ジュゴンやウミガメが海底や岩に生えた草を食べる様子、大きな布が波に揺られているようなムラサキダコ。
群れになった生き物もたくさん出てきます。
クモガニの群れ、エイの群れ、見ていると不思議な陶酔が得られるクラゲの群れ、イルカの群れは鰯の大群を水面近くまで追い込んで、一気に口を開けて捕食します。それを絶好のチャンスとしてカツオドリの群れが鰯を求めて海中に突っ込んでいきます。
しかも、鳥と一緒に海にもぐるような、魚の群れに自分が突っ込んでいくような、波にのまれるような臨場感に満ちた映像、魚の口の中まで見え、繁殖の行動を目の当たりにし、怒涛のような鯨の動きを体感する映像は画期的な撮影システムによって成し得たものです。

鰯の何千匹という群れがひとつの生き物のように大きな楕円を描きながら動くさま、そこへイルカが突進して楕円がほどけていく様子。ただただ圧倒的な映像の迫力です。

荒れた海の恐ろしさ、凪いだ海の表情、それもまた果てしない大きさを感じさせてくれます。
何年もの製作期間をかけただけあって、海の多様な生命は驚きに満ちています。
そうしたドキュメンタリー部分はすばらしいのですが、作った部分が取ってつけたようで稚拙としかいいようがありません。子供とお年寄りの会話のシーン、さまざまな魚や亀、イルカなどが網に絡め取られ、命を落とすシーン。そうしたシーンをわざわざ作って入れなくても、美しい海、多様な生き物を見せることで十分訴えることはできたはずだと思います。
何かどこかから恣意的な働きかけがあったのか、そのような場面を差し込むことでかえって全体の印象が中途半端になってしまったのではないでしょうか。

確かにアザラシがごみだらけの海底を泳ぐさまは見ていて胸が痛むのですが、最終盤の説教くさいナレーションといい、製作者が観客を信じられなくなり、余計な場面や言葉をつい入れてしまうとき、その映画や演劇の生命力は甚だしく減じてしまいます。

イルカや鯨の映像も全体からすればバランスを失するほどに長かったと感じられました。いくら音楽を入れても私には退屈に感じられたのも事実です。隣の女性も寝ていましたし。
せっかく撮った26万mものフィルムがもったいない、もう一度編集して、貴重な生物の姿を見せて欲しいものです。

監督はフランス人、製作者にどのようなメンバーが入っているのかクレジットでよく見ればよかったのですが詳しくは知りません。シーシェパードが賛同団体として名を連ねているとも聞きます。
欧米人という言い方をしていいのかどうか迷うところですが、彼らは散々殺し合いも自然破壊もやりつくしてきたので、鯨やイルカを救えば自らも許されるとでも思っているのでしょうか。
そんな虫のいい話につき合わさせるのはわたしは御免蒙りたいし、どこの神様もそれほど甘くはないでしょう。

そしてもうひとつ残念なことがあります。
この映画は、こども500円キャンペーンと銘打って、積極的にこども客を呼び込んでいます。その結果、お金を払って見に来ているのに、友人の居間でテレビを見ているような気持ちにさせられました。
まだ言葉もはっきり喋れないような子供は早々にぐずりだす。年長くらいのこどもは上映時間の半分くらいで飽きて「もう終わり?まだ?」と何度も聞く。そのうち場内を歩き出す。
大人の観客はみな気にして、後ろを振り返ったりしていました。

この映画は小さなお子さんには向きません。せいぜい小学校の高学年以上でなんとか楽しめるといったところでしょう。でも実際のところ、1時間40分もの間、座らされているよりも水族館にでも行ったほうがずっと楽しめると思います。
海がなんたるかを感じさせたかったら、海に連れて行くのが一番じゃないですか?
まず身近な海を知って、それからガラパゴスや南極でもいいと思うのです。

こうして書いていくと、ちょっと残念というより、かなり残念な映画という気がしてきました。

でもすばらしい映像もあるので本当にもったいない、というしかありません。
暇だったら見てみてください。

あ、こどもキャンペーンは4月9日までです。


コウテイペンギンが南極の白い大地にただ1羽横を向いて立っている。遥か遠くには小高い丘が見え、その後ろから形容し難い色合いの光が差し、周囲をやわらかく包んでいる。ただそんなシーンが忘れられなくなる、そういう映画なのですが・・・。


追記:もちろん、映画館の責任者を呼んで、こどもたちのことについては苦情を言わせてもらいました。
この場合は映画館や映画会社側の責任が大きいと思いますので。
by inadafctokyo | 2010-03-14 02:18 | 映画


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