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江川卓と西本聖

TBSで放映された 20世紀スポーツ名勝負「ライバル伝説・・・光と影」を見た。
小谷美可子と奥野史子、江川卓と西本聖、中田ヒデと岡野雅之、松坂大輔と横浜・PLナインというラインナップだったが、江川・西本以外は前菜かコーヒーくらいの役割しか果たしていなかった。どんなに劇的に盛り上げようとしても、テレビの画面には薄いものは薄い、重いものは重いことが曝け出される。
江川卓、西本聖、この二人の名前は野球音痴の私でさえ、迷うことなくキーに打ち込むことができる。

江川卓、栃木県出身。作新学院のころから怪物と言われ、高校野球史上最高の投手という評価もある。さまざまな経緯を経て巨人に入団。速球とカーブ主体のピッチングで実にリズムが良かった。指が短いためフォークが投げられなかったという話も伝えられた。
彼がプロ入りして驚いたのは試合の時間が短縮されたことだ。江川が登板するとテンポよく投げ込むし、三振・凡打は多いしで中継が始まったらまもなく終わったというような印象がある。その頃の野球中継は今考えたらおかしなことだが、途中のイニングから始まっていた。きっちり短い時間で試合を終える江川はわたしにとって良い投手だった。

西本聖、愛媛県出身。松山商からドラフト外で入団。この年のドラフト1位は甲子園のアイドル定岡正二。(わたし定岡は好きでした。野球選手にしてはスマートでジーンズが似合っていたので。すみません)
プロ入り後は二軍で過ごし3年目に一軍定着を果たす。切れ味の良いシュートが武器。真面目に野球に取り組み、誰よりも練習し、ようやくエースになろうとしたその時に江川が入団してくる。

「自分はいつも2番目だった。」江川に対して常にその思いを持っていた西本が江川を超えた、あるいは超えるチャンスがあったのが83年の西武との日本シリーズであると番組では詳しく取り上げている。
エース江川は足の故障で不調、2敗を喫してしまう。意地と根性の西本はここという試合で強い。西本が2勝をあげ3勝2敗で6試合目に臨む。西武に2-1とリードされて迎えた9回表に逆転。あと1回を押さえれば日本一という場面でリリーフを任されたのは、準備していた江川ではなく、西本。周囲も本人もまさかと思ったこの起用は結局失敗に終わる。
短いイニングなら絶対に抑えて、いいところがなかったこのシリーズで日本一を決めるマウンドに立つと意気込んでいた江川のショックも大きく、同点にされてから上ったマウンドでは集中力が切れてしまっていた。
この回の起用が7試合目の登板にも響いて、巨人は日本一を逃す。

プロ入り1年目3年目の時に十分な結果を残しながら、江川がひとつの目標に掲げていた沢村賞は西本の手に。
投球練習で隣り合わせた時には、どちらも先に止めようとせずキャッチャーが止めるまで300球を投げ込んだ。
江川に負けるものか、その西本の強烈なライバル意識が江川にも感じられなかったわけはなく、「あいつが投げる時は“打たれろ”と思っていた」と江川も言う。互いの存在がより一層持てる力を輝かせた本当のライバル関係だった。他のチームではなく、同じチームに最大のライバルがいたことがチームの成績にも直結した。

巨人退団後は中日、オリックス、そしてまた巨人とチームを変わり、ドラフト外入団選手としては最多の165勝をあげた西本聖。9年で現役生活にピリオドを打った江川は135勝を記録。

二人のストーリーに強く感じるものがあるのは、もちろん自分自身が同年代ということもある。
ジョンがダコタ・ハウス前で射殺され、チャールズ皇太子がダイアナ・スペンサーと結婚した。
お父さんの貴乃花と輪島が引退し、「おれたちひょうきん族」 「笑っていいとも」が放送開始、NECがPC9801を発売、東京ディズニーランドが開園した。覚えていますか、そこに私もあなたもいた。
あの時代を一方で象徴するような存在であった江川と、その江川がいたからこそ井戸の水を汲み上げるように自分自身の力を引き上げることができた西本。
おそらくやり切ったという思いがある西本に比べて、江川には「もっと」という思いがあるのではないか。高卒ですぐプロ入りしていれば、あの1年間の浪人がなければ、プロ選手としてどれだけのことを成し遂げたか・・・。
しかし、江川はそのようなことは口にも態度にも出さない。笑みを含んで自分を茶化すのがいつものことだ。
長島監督の下で地獄と言われたキャンプを張った伊豆でキャッチボールに興ずる二人。
日本の中で今よりも野球が意味を持っていた時代のエースがそこにいた。

ライバル関係が時として、とてつもなく人を成長させる。あまりにも苦しく、相手を憎むことさえすることに自らも傷つく。だが逃げればもっと苦しい敗北という現実に直面しなければならない。逃げさえしなければ、ライバルと闘って負けるのであればそれは人間としての負けではない。
平山と赤嶺にもそういう関係になってほしい。そしてそこに祐介も絡んできてほしい。
by inadafctokyo | 2009-07-22 13:41


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