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おおかみこどもの雨と雪

府中のTOHOシネマズは若いカップルと親子連れが目立った。
この映画は小さい子であっても、恋愛中の若い人であっても、子育て中の人も私たちのように50夫婦割引の二人であっても楽しめる、心に残る映画だ。
(ストーリーに言及しています)

はながおおかみおとこの彼と出会って、すこしずつ距離を縮めていく過程は、誰にでも思い当たる感情を肌理細やかに描いて切ない。
二人ともが恵まれない境遇と慎ましい生活を送っているために、わたしたちの青春時代を彷彿とさせるが、実際は細田監督が切り取った平成の断面なのだ。

やがて妊娠したはなは自宅で二人だけで出産しようと本を読んで備える。何かと云えば図書館で本を探すのも懐かしさを感じる。
姉の雪に続いて弟の雨が産まれてまもなく、父親のおおかみおとこは命を失う。
一人で幼子を育てるはな。雪と雨は感情が昂るとおおかみに変身してしまうことをコントロール出来ない。都会での暮らしに行き詰まりを感じたはなは二人を連れて、地方に移住する。日本のどこにでも見られる田畑や里山はあるが、カラオケ店もファーストフードの店もない、高齢化の進む地域。
住民の注目を集めながら、廃屋を修理し、荒れた畑の手入れをする。
移動図書館で借りた本の通りに野菜を育ててみるが、失敗ばかりだ。本と現実とは違う、そういう時は先人の知恵を借りたほうがいい。
見かねた老人がぶっきらぼうだが的確なアドヴァイスを与え、そこから住民たちとの交流が始まる。

畑で労働に汗を流すはな、雪のなかこどもたちと駆けまわるはな、地域の自然ビジターセンターで働き始めるはな、ゆっくりと季節が移り変わり、こどもたちは成長していく。活発な姉の雪、臆病で体が弱く学校も休みがちの弟の雨。
こどもたちがおおかみとして生きるのか、人として生きていくのか、どちらでも選択できるようにと深い森と山に囲まれた地域に引っ越してきた一家に、こどもたちの成長とともに岐路が近づいてくる。
おおかみこどもをどうやって育てるのか手探りで取り組んできたはなだが、二人は周囲の大人たちや友達関係、そして自然の中で、生きる術を学んでいく。

少女らしい心の揺らぎを体験する雪は転校生の少年との関わりから、自分を押さえつけるのではなく、認めて生きていく手がかりを掴む。
おおかみとしてのアイデンティティに目覚める雨は山で生きていく術を山の中で「先生」から学ぶ。
そして台風が豪雨と強風をもたらしたある日、10歳の雨は自立する。

わたしたち親はみな、おおかみこどもを育てているのだ。自分と違う考えと生き方をする生き物を育てている。どんな生き方を選ぶのか、その道を選んだ時に何が必要か、こどもは自分で掴んでいく。
山に帰っていく雨に、はなは「まだ何もしてあげていないのに・・」と悲痛な声をかける。
振り返る雨の目はしっかりと母を見つめている。
こどもが一人で歩き出した時点で、わたしたちの役目はあらかた終わっている。
それまでに多くを与えた。惜しみなく慈しみ、向き合い、手をかけ、見守った。
親からたくさんの愛を受け取って、こどもは旅立つ。

そして私たちもこどもを産み育てる過程で、大きなプレゼントを受け取っている。

だからこどもたちには心配せずに行きなさいと言おう。

「しっかり、生きて!」「元気で・・」

姉の雪は中学校に進むために寮に入り、はなは今でも深い山の麓の家に住んでいる。
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by inadafctokyo | 2012-07-22 16:48 | 映画

大事なお知らせ

大事なお知らせが二つあります。
ひとつは「ミツバチの羽音と地球の回転」調布上映会のおしらせ
8月7日(日)たづくり にて
調布上映実行委員会のおしらせ
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原発 ほんとうに必要ですか?
核は人と共存できますか?

山口県の島に降ってわいた原発建設計画、その計画を巡って島の人たちはどのように感じ、暮らし、動き、言葉にしてきたのか。28年に及ぶ記録です。祝島では今も反対運動が続けられています。

「祝の島」(ほうりのしま)こちらの上映会もあります。
おしらせ


岐阜戦の当日ですが、お時間あればぜひ。


そしてもうひとつは、恒例の
ユース・ジュニアユースを応援しよう企画!
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今年はネイビーと白のTシャツになりました。文字のグラデーションが美しい!
2011年という年はだれもが忘れられないものになると思いますが、年若い多感な彼らにはまた、私たちとは違った思いがあるでしょう。
今年も変わらず、今年はもっと熱い大きな気持で応援したい。

1枚3,000円で注文していただきますと、選手やスタッフのみなさんにもTシャツをお届けすることができます。
締切は8月7日です。どうぞよろしくお願いします。
ご注文フォームはこちらから!

自分を、仲間を、自分の好きなことを信じて、それが未来につながることを信じて。

いつもこの応援企画を準備して、動いてくださるみなさん、ありがとうございます。
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by inadafctokyo | 2011-07-29 14:18

男はみんなロクデナシ  「ブルーバレンタイン」

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そういう映画でした。「ブルーバレンタイン」
では女は?と言うと、しっかり仕事して、こども産んで育てますという・・。
ストーリーはシンディという女の子とディーンという男が出会い、お互いに夢中になり、結婚し、やがて破局するまで。
年齢や性別、既婚か未婚かで受け取り方がかなり変わりそうな映画です。
監督と脚本家が10年以上かけて練り上げたというだけあって、平凡なストーリーを非常にち密に織り上げています。

若いころの異性に惹かれる瞬間、セックスの喜び、年を経てすれ違う感情、小さいエピソードを丁寧に描いて無理がありません。

今月末まで光TVの無料お試し期間で、旦那が毎日暇さえあれば映画を観ています。それで分かったのはこれだけたくさん映画が作られていて、しかし本当に観るべきという映画はそんなにない、ということ。
この映画はみなさんにお薦めできます。

現れる男は、まずシンディのボーイフレンドのボブ、マッチョなハンサム。
しかし、まだ学生で、医者を目指して勉強を続けたいシンディのことも考えず、中に出してしまう様な大馬鹿野郎で、シンディは腹を立て距離を置くようになります。
そこに現れたのがディーン、定職にも付かずにその時その場をふらふらと生きているような男なのですが、屈託のなさとユーモアとウクレレと歌でシンディの心を掴んで行きます。
最初、近づいてきたディーンに用心して寄せ付けなかったシンディですが、ちょっとしたきっかけで近づいていく二人のやりとりが見ていて微笑ましい。
ちゃんとした仕事に着く、世間の評価を受ける、そういう価値を重く見ていないディーンに惹かれてしまうのも、不機嫌を平気で家族にぶつける父親の存在があるからでしょう。
食卓はいつでも修羅場になりかねない。これも一種のロクデナシ。

この映画を説得力あるものにしているのは、主役二人の役作りの凄さにも依っています。
ライアン・ゴスリングとミッシェル・ウィリアムズは出会ったころの若い二人とその7,8年後を見事に演じています。演技もさることながら体重を増やし、ライアンは髪を抜いて自然に年月を表しています。もっとも二人とも80年生まれで両方を違和感なく演じられる年齢、若いころを演じられるぎりぎりの年齢だったと言えるかもしれません。

女と男は数々の勘違いの揚句くっついたり離れたりするわけですが、こどもがいると途端に現実的になる女といつまでも勘違いをしているままの男、もっとも、名を上げるよりも父であること夫であることを何より大事にしたかったのもまた男なりに現実に即してということになるのでしょうか。

わたしとしては(ここでいきなり私生活暴露か!?笑)朝から酒飲んでいても構わないけれど、やるべきことはやってねというだけ。
どこまで許容するかは夫婦それぞれ。それは非常に微妙なバランスの上に成り立っているものです。

二人の若いころの幸福感が素敵な分、その後のすれ違いが痛いのです。でもこれは結婚生活の長い人には多かれ少なかれ解るものでは・・。そう言うと未婚の男性にはショックなものらしいのですが。仕方ないのよ、永遠に変わらないものなんてない。人の感情も同じ。
最後には、シンディを追いかけて追いかけて自分の気持ちを伝えようとしたディーンも、回復不能を悟って母子に背を向けて去っていきます。
女はこどもさえ居れば大丈夫なの。涙は明日には乾く。
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by inadafctokyo | 2011-05-12 17:14 | 映画

ささやかな夏休み

12日から夏休みのわたしだが、特に何をする予定もない。
今日は(もう昨日だが)ダンナと映画を見に行こうと思って、あれこれ調べていたら、うまねんさんのブログでレニ・リーフェンシュタールの「意志の勝利」が公開されていると知って、非常にそそられたのだ。

そこで、3択にしてお伺いを立てた。

1.サマー・ウオーズ
2.ハリー・ポッターと謎のプリンス
3.意志の勝利

はい、ダンナさんの選択は2番。なので、府中TOHOシネマズでハリー・ポッターを見てきた。

大体この3択のチョイスは何よって言われると、それぞれに私がとっても見たいもの。
実は今日の場合は3が見たかったことは確か。そこで強くプッシュして「”意志の勝利”を見ようよ」って言うこともできるけれど、渋谷で上映しているということとテーマから推測して、うちのダンナが「オレはいいよ、行ってくれば」ということもあり得る。めんどくさがりなんだ。

大抵のことはわたしがさっさと相談もせずに決めてしまうから(仕事をやめるとか引っ越すこととか)、映画くらいはダンナの意志を尊重しようかと思ったわけだ。それで全てがチャラになるってわけでもないけど、まあいいんだ。

ハリー・ポッターは面白い映画だった。原作の小さいけれど大事なところはたくさんカットされていたが、決められた時間でまとめるためには最良の選択だったかもしれない。
小さな頃から見ていた少年少女たちがみな成長した姿に感慨を抱いた。
ダンブルドアの遺体を前に、マクゴナガル先生と生徒たちが杖を天に向けて灯りをともす場面は、現在の世界が直面している悲惨に立ち向かう意志を示しているようだった。
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by inadafctokyo | 2009-08-15 01:22

ホノカアボーイ

料理をする場面がある映画が好き。
かもめ食堂 赤い薔薇ソースの伝説 バベットの晩餐会 マーサの幸せレシピ・・・・

ソースを火にかけたり、パン生地が膨らんだり、肉をマリネしたり、そうした過程をきちんと追った映画は間違いなく面白い。
そして音楽。料理と音楽がシンクロした時間に浸っているとわたしの中で幸福感が溢れてくる。

「ホノカアボーイ」もそのような幸せ快感映画の一作。
吉田玲雄原作の「ホノカアボーイ」の映画化。(原作についてはまた後で)

ハワイ島の北に位置するホノカアは日系移民が多く住む、年寄りばかりの町。そこにやってきた優しい日本人の男の子レオ。まだうまく大人になりきれないレオは町の人たちに包み込まれて、何ヶ月かを過ごすうちに生き方を覚えていく。
日系のビーというおばあさんに毎日夕ごはんをご馳走になることになり、ポラロイドでその食事を撮り続ける。
料理の得意なビーさんは、インスタントラーメンで食事を済ませたり、包丁も持っていないレオにごはんを食べさせることを決意する。人間はいつどんな時もちゃんとしたごはんを食べていれば大丈夫。ちゃんとしたごはんを作って提供する人も食べる人もどちらも大丈夫なものだ。
ごはんを作る、それを食卓に並べ、どうぞと勧める。食卓についているレオはいただきますと箸を手にする。食べるどんどん食べる、見守るビーさん。親子のような二人。でもビーさんはきれいなハワイ風のワンピースを着たり、レオの恋の相手にやきもちを焼いたりする可愛い人。
ハワイ島の海と砂浜、草の生い茂る丘、ちょっと寂れた町並みやぴかぴかでない大き目の車。
美人で食いしん坊でおっとりした映画館の女主人、その彼女より大きな体の夫は映写技師。
日本のエロ本でないと立たないというおじいさんはホノカアの通りに座って、レオに大切なことを語りかける。
ハワイの波と風で育ちましたという精神と体のロコ(ローカル)の女の子。
派手な化粧が似合っている床屋のおばあさん。
口うるさく携帯が手放せないレオの彼女。
写真を撮ってはブログにあげるせかせかした日本人の若い女性グループ。

ハワイ、ハワイと来てみたけれど
お里恋しや つきのにじ

レオの親友だったエロ本のおじいさんもビーさんも亡くなり、やがてレオも島を離れる。
希少な自然現象のムーンボーを見ることは出来なかったが、かけがえのない人と出会い、大切な経験をしたレオは自分の力で願い事をかなえることが出来るようになっていた。

とてもいい映画です。
岡田将生くんが素直で優しい中途半端な時期の男の子を好演。彼みたいな子がごはんを食べに来てくれたらなぁと思いますが、今のところ呼べば来てくれるのはもっさんくらいです。別に不満はありません。まったくありません。
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by inadafctokyo | 2009-03-20 13:28

世界の綻びは閉じられました

シュート入らないさんに指摘されて己のハイテンションぶりに気づいたinadaです。
こんにちは。
クラブの好不調と自分自身のバイオリズムがシンクロしています。
なおかつyocchiさんまで“シュート入らないさん”と言っていることにも気づきました。
わたしのせいですか。


昨日はレディース・デー(毎水曜日女性1,000円)でしたので、娘と吉祥寺に「崖の上のぽにょ」を観にいきました。
絵本のような背景は好きです。パステルか色鉛筆で描きこんだような崖の上の家、デイケアセンターの庭、植物、船。すべてを人の手でと思った狙いは成功しています。この作品がリアルな造作を持ったらちょっと怖い。
ぽにょは可愛いのですが、津波になって(実際は津波に乗って)男(5歳ですが)を追いかける、念力?を使うと醜くなる(カエルとトリの中間のよう)無邪気だけれど奇怪な様子。そしてぽにょの母親の圧倒的な力を暗示する登場の仕方、父親の病的な感じなど、まあいろいろ怖いわけです。
海の墓場のようなところが出てきたり、町は水没するし、宗介の母も父も一時はその生存が疑われる事態になるし。

こまごま疑問に思われる点はあるけれど、「ま、いいか宮崎さんだし」ってこれで方がついてしまう。それが良いことなのかどうか難しいところではあるのでしょう。
ただ宮崎さんの映画が好きな人はきっと楽しめる筈で期待は裏切られません。
私も宮崎さんの映画が好きな人です。あれやこれや観てから自分なりに考えることができることも宮崎アニメの魅力のひとつです。

それよりも気になったのはこの映画を憂太が面白かったと言ったことです。どのあたりが、どうしてというような深いところまでブログでは触れていません。まあ、深く考えているかどうかはともかく、そういうことを詳細に書くような子じゃありません。だから勝手に詮索しています。
この映画は「家出」の映画です。大事にされていたのに家出する。たまたま出会った宗介と一緒にいたいから人間になるという。そして地上で暮らしていくために試練を潜り抜けていく過程を描く。

津波を起こしてまで出たいと思ったの?自分を変えてまで?
あなたにとっての宗介はなんですか?

彼のブログで痛いところがあるのに試合に出ていることを知って、少し驚きました。だからこんなことを思ったのでしょう。
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by inadafctokyo | 2008-10-30 14:49

アマラオ みんな ありがとう

c0068891_14335289.jpg吉祥寺のバウスシアターで「KING OF TOKYO」を観た。連日8時40分からの1回放映というレイトショー。整理券も配っているが、ぎりぎりに行っても十分席はある。
FC東京グッズを持っていけば1,200円の割引に。あ、湘南でも高崎でももちろん。
時間より早めに着いたので、旦那とフレッシュネス・バーガーで生ビールを飲む。
アマラオの映画の前に上映しているのは小泉今日子主演「グーグーだって猫である」
わたしは猫にすこぶる弱い。旦那はキョンキョンに弱い。

アマラオはいつも通りのアマラオだった。それ以下でもそれ以上でもなく映画は案外淡々と進行していく。それが良かった。ムサ美卒だから言うわけじゃないけれど、この太田綾花という監督は良いのではないだろうか。
淡々と、と言っても冒頭の引退試合の映像あたりで、もう涙腺が緩くなる。
東京とブラジルを行ったり来たりしながら、わたしたちはアマラオの人生を振り返る。もう十分に知っていることばかりのはずだけれど、ひとつひとつのエピソードはきちんと胸に納まっていく。
スクリーンには猿江の町が映る、東京ガスグランドが映し出される。低い建物が並ぶブラジルの町並みが映る。アマラオが弟たちとボールを追った空地が映る。両脇が何かの畑になっている田舎の道が映る。昔アマラオが綿摘みをした畑だ。古びたイトゥアーノのスタジアムが映る。カメラは再び日本へ、そしてわたしたちの味の素スタジアムが映し出される。こんなに美しいスタジアムだったか?錯覚に違いない。でもアマラオが10年以上をかけてたどり着いたスタジアムは美しいと思える姿で現れた。そのことが嬉しかった。

アマラオは映画の中でもいつもどおりの姿で、等身大だった。涙もろくて愉快で明るくてちょっと悲しくて、いつも周囲に気を配っていて、試合中はかっこいい。(時々かっこ悪い)

仙台の選手なのに東京のTシャツを着て、「アマラオが大好きですよ」と言ってくれた由紀彦ありがとう。
「どんなに長く在籍してもKING OF TOKYO 2代目になれる選手はいないでしょうね。あのスタジアムのアマラオの旗は何十年後もあるだろうし、あって欲しい」と話してくれたモニ、ありがとう。
他のチームのことなのに、真剣にアマラオの移籍を止めさせようとしたラモスさん、ありがとう。
(うちの旦那さんの解釈はアルディレスが嫌い、かつマリノスには勝たせたくなかったんだよというものだった。それも多分ありかもしれない)

この映画に出演したみなさん、ありがとう。
驚いたことにわたしまでちらっと出演してしまった。

引退試合の後にペレからメッセージをもらって大喜びして「本当のキングだ」と言ったアマが大好き。


金曜までです。まだの方はお早めに。
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by inadafctokyo | 2008-10-23 14:34 | FC東京

ブロードウェイ♪ブロードウェイ―コーラスラインにかける夢

人は何者かに生まれるのではない、何者かになるために生まれるのだ。

映画「ブロードウェイ♪ブロードウェイ―コーラスラインにかける夢」に登場するのは有名、無名のたくさんのダンサーたち。
ニューヨークのあるビルの前に行列ができている。何千人という数のダンサー。16年ぶりに再演される「コーラスライン」のオーディションの今日は初日。これから8ヶ月にも及ぶ戦いの日々に彼らは臨む。何度かの選考を潜り抜け、最後の19人の中に自分の名前を刻むために。

マイケル・ベネットの作・振り付けによる傑作ミュージカル「コーラスライン」はオーディションに集まったダンサーが赤裸々に自分自身を語っていく、ストーリーらしいストーリーのない、当時としては画期的な作品。
ブロードウェイのミュージカルが、ダンサーそのもの、ブロードウェイそのもの、ショービジネスそのものを描いて、15年ものロングランを記録した。成功の鍵はリアルさだった。演出家の「履歴書に書いていないことを話してくれ」という求めに応じて、ダンサーたちが語るのは、生い立ち、コンプレックス、性的傾向、家族との軋轢、成功への渇望などなど。彼らの告白が生々しく見ている観客に迫る。彼らの言葉が自分自身の経験を呼び覚ます。

そのリアルを支えたインタビューテープの存在が明かされる。ベネットがダンサーたちにインタビューしている様子を録音したテープがある。ダンサーについての作品を考えていたベネットは彼らの話す内容に触発され、数ヶ月の後にオーディションを舞台に上げることを思いつく。
そして歌い踊られる素晴らしい曲の数々。「One」(キリンのCMでもお馴染み)「At the Ballet」「I Can Do That」「Sing!」「I Hope I Get It」どの曲も歌も耳に馴染んでいる。
オーディションの場でそれらの曲をさまざまな人間が歌い踊っていく。何度かの選考でふるい落とされ、ひとつの役を何人かで競っていく状況になる。
唯一の日本人としてyukaがコニー役に挑む。初め彼女を見たときはもう少しきれいだったら良かったのにと思ったが、日本で見る日本人とは明らかに違う彼女を見ていると、人間の可能性を感じられる。

最終に残ってくるようなダンサーはみな甲乙つけがたい。しかしオーディションは8ヶ月も続く。その間も歌やダンスのレッスンを続け、私生活でも環境の変化がある。何ヶ月も前の演技を求められ、混乱してしまったり、予想外に成長を遂げたりする。素晴らしく上手いのに、最後の最後で解釈を間違えてしまったり。
1回だけ良くても、前回良くても、今この時に力を見せなくては、審査する側を納得させなくてはならない。
役に打ち込む、役に出会う。「ポール」役を掴んだダンサーはポールのセリフで、審査するオリジナルスタッフ・キャストを感動させ、涙させた。
男らしくなれない自分に悩みながらダンスに打ち込み、ゲイのショーに女装で出演し、両親にそれを見られる。焦り、戸惑い、そして父親が自分を受け入れてくれた喜びを語る「ポール」に思わず涙する。この場面だけでなく、何度も涙が流れるところがある。それを言葉にすることは難しい。全てを捧げて舞台に立とうと役を掴もうとする彼らの姿は、説明の必要のないほど激しく美しい。
心を動かされるのは彼らが諦めないからだし、捨てないからだ。どんな結果が待っていようと、自分を信じて立ち上がり、歩き出す。自分を信じることができるのは、小さな努力の積み重ね、小さい頃からの鏡の前でのレッスンがあるからだ。常に自分と向き合うことができるダンスへの愛があるから。
映画の原題「Every Little Step」こそがこの映画に相応しい。邦題の能天気でセンスのなさはどうだろう。

厳しいオーディションを潜り抜けて、舞台に立った彼らに重要だったのはその1回の成功ではなく、そこまでの道のりを歩いてきた、続けてきた自分自身にライトがあたることだったのではないだろうか。

オーディションに参加した全てのダンサーの皆さんに幸多かれと祈る。
シーラ役を最後逃した彼女が好きだった。


ウォーターゲート事件で混乱するアメリカ人に、勇気と希望は自分自身で生み出さなければならないと伝えたかったベネットの作品は、今の日本にも大切なものだろう。


試写会 読売ホールにて
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by inadafctokyo | 2008-10-11 11:41

娘とお茶を

中学生の娘と「Miss Potter」を観に行った。
これはこの年頃の人と見るにはいい映画だと思う。
100年以上前のイギリスで、才能のある風変わりな女性がどのように自分の望みを実現したかとも読み取れる映画。
彼女は裕福な上流階級の娘であり、絵の才能に恵まれ、女性が、特に上流の女性が職業を持つことなどなかった時代に、30をだいぶ過ぎても結婚せずに自分の絵を携えて出版社巡りをするような人。
親の進める恵まれた相手との縁談は断り、本の出版に際してのパートナーとなった男性と恋をする。
彼女ははっきりとしたビジョンを持っており、妥協しない。ビジネスのセンスにも長けていた。
彼女の絵は非常に魅力的だが、ただ可愛いだけではなく、ジャケットを着たりショールを羽織ったりはしていても、ウサギはウサギ、ネズミはネズミとして生き生きしている。動物も植物も描くものに嘘がない。博物学者のように正確だ。実際に茸の研究をしていたが、女性だからという理由で学会には参加を拒まれたということがある。

本の印税と遺産で湖水地方の土地4,000エーカーを買い取って、景観と牧畜、農業を守ることに力を注いだ。
彼女のお陰で今でもイギリスの湖水地方は昔のままの美しい自然を保っている。

日本の13歳の女の子も勇気付けられる作品だ。
とは言っても、これほどの才能も資産もないことを気にするな娘よ。世界は広い。未来はあなた次第だ。

映画を見ているうちに、随分以前に旅した湖水地方のことをはっきりと思い出した。
ロンドンのユーストンから急行に乗って、オクセンホルムで乗り換え、ウィンダミアで降りる。
宿泊はグラスミアだった。詩人のワーズワースが一時暮らした「ホワイト・モス・ハウス」は庭も部屋も料理も素晴らしい小さなホテルだった。
一度でいい、また行きたいものだ。
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by inadafctokyo | 2007-10-04 00:05

青春デンデケデケデケ

大林宣彦監督の92年の作品。だんながDVDを買ってきたので久しぶりに見ました。

香川の観音寺で高校生がバンドを結成する青春傑作ムービー。
バンドを結成するきっかけを与えるのが「ザ・ベンチャーズ」というので時代がはっきりするでしょう。
60年代に日本を席巻したバンドで「パイプライン」という曲のギター・フレーズが若い人を熱狂の坩堝に叩き込んだわけです。それは大げさでなく、この映画は四国のことですが、東京でもどこでも若い男の子はエレキ・ギターに取りつかれてテケテケの練習をしていたのです。
彼らが練習場所に苦労する様子を笑いながら見ていてはっきり思い出しましたが、当時わたしの町でも豆腐屋の息子や経師屋の息子が中心になったバンドの練習が近隣住民を驚愕させて苦情が殺到し、困った町内会では夏祭りに出演させることにしました。そうすれば多少大目に見られたわけです。夏祭り当日は櫓の上でベンチャーズサウンドが鳴り響き、女の子たちはキャーキャー嬌声を上げていました。
多くの男の子にとっては、ギターをかき鳴らしたのは女の子の注目を集めるためだったんでしょうね。

私はと言うと少し上の年代がベンチャーズに血道を上げるのを横目で見ながら、ビートルズにイカレていました。
歌謡曲と演歌にうんざりしながら、小さいころから父親の趣味のジャズのシャワーを浴びていた私にとって、初めての自分のための音楽がビートルズだったのです。

楽しい作品でした。
メンバーに扮するのは林泰文、大森嘉之、浅野忠信(!)、永堀剛敏。初々しくさらりと演じていつまでも心に残る映画になっています。
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by inadafctokyo | 2006-07-28 15:02