失われた週末

試合後は椅子に深く腰掛けて、選手たちの挨拶に視線を送るが何の反応もしない。しばらく立ち上がる気力が湧いてこなかった。
周囲が寂しくなってから、同じように黙り込む娘を促して仲間に固い笑顔で挨拶をして、出口に歩き出す。
もう少しで駅に向かう出口というところで、傘を座席に忘れたことに気づく。折悪しく激しく雨も降り出したので、仕方なく取りに戻る。それが本当に失敗だった。
FC東京サポーターはあらかた引けてしまい、虎の子の1点を守りきった赤いチームのサポーターはいつまでもアウェイ側で居残って騒いでいた。傘のお陰で帰り道は赤だらけの中を行くことになってしまった。

駅への道でもホームでも、わたしは相当険悪な顔をしていたに違いない。目の前にいる妙にへらへら薄笑いをしている娘が電車の中で携帯のメールをよこした。

”色覚異常になったよ。赤が見えない。”

赤いユニフォームに囲まれて、今にも爆発しそうな母親に”見るな、見なければいい”とアドバイスを送る娘。

娘は意志の力で赤いものを見えないようにした。わたしにもきっとできるはず。明大前に着くまでの苦痛は、いかにして周囲の景色から赤を取り去るかに集中していたためにかなり薄められた。

LIVREに寄って今日の試合をもう一度振り返ることはできない。わたしたちは言葉にしなくても心は通じていた。

つまみを買い込み実家に帰り、とことん眠くなるまで二人でオリンピックの映像を眺め、卓球やレスリングや水泳競技について語り合い、女子サッカーに話題が及ぶと盛大に褒め称え、しかしすぐに話題を変え、Jリーグの試合結果を報じそうな番組は慎重に避け、ビールとソフトドリンクを相当量消費し、くたくたになって眠りについた。

今日も一度も試合について口にしていない。1週間ほど隠遁したい。
今のところはヴェルディ戦なんてどうでもいい。少し気が軽くなる要因があるとしたら、国立で行われることだ。今、すぐに味スタに行けと言われたら、吐き気と頭痛で気を失ってしまうだろう。

女子マラソンで気を紛らわそうとしたら、そこでも大きな失意にとらわれる女性を目撃した。
土佐礼子、足の故障のために最後まで走りぬくことさえできなかった。
エースとベテランがいなくなるという予想もできない展開の中で本来なら、大した結果は残せなかったが貴重な経験を積めたというだけで良かったマラソン2度目の中村友梨花はレースが終わってから、自分に賭けられたものの大きさに戸惑っていた。
土佐はオリンピックの重さを知りすぎていたために失速し、中村はその意味を理解しきれていなかったために、重要な勝負を失った。

しかし、その彼女たちの失意がわたしたちの失意を超えていたとは思わない。
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by inadafctokyo | 2008-08-18 00:09 | FC東京


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