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二百年の子供

大江さんにとって、民主主義がどれだけ大切かということを考えさせられて、ほぼ1年前の講演の記録を書いておこう。

2004年2月21日 東京国際フォーラム
「二百年の子供」-講演とコンサート-
500人のお子さんが来られたら、ぼくのつまらない話で500人の子供の1時間という時間を奪ってしまうことになると心配した。
9歳の時のことを夢に見た。夢に見たらカードに書くことにしている。小さいきっかけがあると、それをふくらませられる。
9歳、戦争の時、教育も戦争に勝たなきゃいけないという教育だった。
兵隊さんを励ます作文を書かされ、愛媛県のコンクールで入選し、松山に連れて行ってもらうことになった。前日に校長先生から壇上でその作文を読むようにと言われた。正直困った。子供心にも嘘をついていると感じていた。立派に戦って死んでください、という内容に。その朝逃げ出した。隠れてやり過ごして、作文を読まなくて済んで喜んで体操していたら、母親が見ていた。鎌を持って笹を刈っていた。帰るとき、健三郎さんはこれからどうするつもりかと聞かれた。ぼくは「ずっとこの村にいたい」といいました。「そうできればなあ」と母は言った。

ノーベル賞をもらった時、テレビの取材が来ると母親は部屋にいなかった。山のもみの木のところにいた。母親はぼくがまた逃げ出すのじゃないかと思ったのではないか。

イマジネーション(想像力)
本を読んで心が揺さぶられる。良い本を読み終えると心が動き出す。自分の中の想像力に勢いがついてくる。上手なコーチに習うといつも以上にうまく体が動いたりする。良い本を読むと想像力が鍛えられる。
10歳のとき、民主主義が好きだった。20歳になったら兵士になって、戦争に行って天皇陛下万歳をして死ぬと思っていた。ところが、戦争が終わって憲法を知って、民主主義を知った。あらゆる人が同じ権利を持っている。あらゆる国と対等なつきあいができるという。母に、ぼくはこれで行きますと言った。

ニルスの不思議な冒険では最後に人間に戻るけれど、また小さくなってガンの背中に乗って冒険の旅に出たほうがいい。
ハックルベリーフィンの冒険ではトム(奴隷)の持ち主のおばさんに居所を知らせる手紙を書こうと思うが思いとどまる。
「よし自分は地獄へ行こう」最後はまた出かけていこうと決意する。そこが好き。

光さんのこと
光のことを小説に書いた。有吉佐和子から「このような小説をこどもが産まれてすぐ書けるのはあなたが男だからよ。出版することは奥様に残酷だと思う。他に書くことはないの?」となじられた。
自分はあわれな小さい生き物(光さん)を中心に置く生き方をしようと定めた。
光さんがTVの鳥の声に反応したので、1年中鳥の声のレコードをかけていた。僕の編集担当になる人は上司に「野鳥はきらいか?」聞かれた。
by inadafctokyo | 2005-03-01 22:57 | 大江健三郎


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